アインシュタインと科学者たち

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第1章 マイケル・ファラデー

プロローグ

アインシュタインと聞くと、年老いた白髪の人物を思い浮かべるでしょう。しかし、E=mc^2 の方程式を生み出したのは、年老いた彼ではなく、若く、はつらつとして魅力にあふれたアインシュタインでした。

「もし僕らが光に乗れたら、何が見えると思う?」

――〔エネルギーのE(Energy)〕――

「もしかしたら、電気の何らかの力が、銅線から放出されているのかも。」

「は?」
「おいおいファラデー。電気は銅線の中を通ってるんだぞ。外には出ない。」

「見たかジョン!見たか?」

――〔質量のm(Mass)〕――

「私が証明したいのは、自然というシステム。保存系であることです。物質の形態が変わろうとも、物質の量、つまり質量は、増えもせず、減りもしないのです。」

「人民だ。」

「ラボアジェ!」

「正しいか、そうでないかを決めるのは。」

――〔光速のc(Celeritas)〕――

「エミリー、ばかなことを言うな!なぜ活力のような、あいまいで測定できないものを、いまさら持ち出すんだ。古い考え方に戻る気か?」

「自力で何かを発見する才能はないの?」

「君を見つけたじゃないか!」

「真実は真実です。」

――〔原子の中へ〕――

「マイトナーさん?」

「オットー・ハーンです。」


「はい…。」

「狙うのは原子核です。」

「ユダヤ人がいるとまずいことになる。」

「ユダヤ人は匿えないんだよ!彼女がいると、研究所が閉鎖されてしまう!」

「彼は原子核を分裂させたのよ。」「彼じゃない、おばさんの業績だよ!」

「エネルギーイコール質量、かける光の速度の、二乗なんだよ!ははっ。」

――〔E=mc^2 アインシュタインと世界一美しい方程式〕――

E=mc^2

〔1905年 スイス ベルン〕百年前、一見単純な方程式が、宇宙のひだの奥深くに隠れていた、統一性を明らかにしました。その方程式は、エネルギーと、物質と、光の関係を見事に表していました。導き出したのは、若きアルバート・アインシュタイン。これは、世界で最も有名な方程式です。E=mc^2。

しかし、この方程式を見たことはあっても、その意味を理解している人は多くありません。E=mc^2は、あまりにも驚くべき方程式だったので、当初、アインシュタイン本人も確信が持てませんでした。

「お帰りアルバート。もっと早いと思ってたのに。今夜はソーセージとチーズだけなの。どうしたの?」

「話がある。」


「何かあった?」

「ああ違う。ごめん、そうじゃないんだ。今日は仕事しながら、一日中、窓から列車を眺めていた。そして考え始めた。ある物体と、その物体が持つエネルギーについて。聞いてくれるか。」

「ええもちろん。でもその前に、夕食ね。食べながら聞くわ。」

「神は、僕を笑っているだろうな…。」

神は、アインシュタインを笑ってはいませんでした。E=mc^2という方程式を形作る、さまざまな要素を生み出した先駆者たちの業績が、アインシュタインの驚くべき洞察力でまとめ上げられたのです。E=mc^2の物語は、アインシュタインよりはるか前、E、すなわちエネルギーの発見から始まります。

エネルギーのE

19世紀初めの科学者たちは、まだエネルギーという統一的な概念を持っていませんでした。電気や磁気から生じる力を、それぞれ別のものと考え、その間には何のつながりもないと考えていたのです。吹きすさぶ風、勢いよく閉まるドア、空を走る稲妻、これらの背後に、すべてを支配し統一するエネルギーが存在するという概念は、まだありませんでした。しかし、自然の謎を解きたいと願う一人の男の情熱が、すべてを変えたのです。

デイビッド・ボダニス 作家「マイケル・ファラデーは、鍛冶職人の息子で、教育は受けていませんでしたが運よく製粉工場に雇われました。彼は知識欲が旺盛で、仕事で扱う本を片っ端から読んで科学への情熱を高めていきました。ファラデーは自由な時間とわずかな賃金をすべてつぎ込んで、目に見えないエネルギーの世界を探求する旅に出ました。」

ファラデーの仕事ぶりを気に入った客から送られた、一枚の入場券。それが彼の人生を変えます。

「すみません。通してください。」

「通せだとさ。」
「僕は自分を磨きたいんです。チャンスさえあれば。」

「おおそうか?通りたまえ。いい暮らしを目指して。」

S・ジェームズ・ゲイツJr. 物理学者 メリーランド大学「19世紀初め、科学は貴族がたしなむものでしたから、ファラデーは明らかに異質でした。初歩的な教育しか受けておらず、読書と講演会で独学してきた彼が、1812年、著名な科学者、ハンフリー・デイビー卿の講演会の場にいたのです。」

ハンフリー・デイビー卿

「うわっははは…。」

19世紀の科学者は、時代の先端をゆくスターのような存在でした。講演会の入場券を手に入れるのも難しいほどの人気に、デイビーは酔いしれていました。

「客が待っています。」
「わかってる。」

デイビーは当時の流行であった亜酸化窒素、笑いガスを常用していました。アルコールの長所を備え、かつ二日酔いがないというのが、彼の持論でした。

ハンフリー・デイビー卿「電気とは!いいですかみなさん、不思議な力です。電気を使えば、何かわからない物質が混ざってできている混合物から、純粋な元素を、取り出すことができるのです。」

S・ジェームズ・ゲイツJr. 物理学者 メリーランド大学「デイビーは一流の科学者でしたが、彼の最大の業績は、ファラデーを発見したことだといわれています。」

ハンフリー・デイビー卿「私が分離した未知の金属もあります。カリウムは溶けた壺の灰から分離に成功。それからナトリウムはこの前お見せしたように、普通の塩から分離したわけですが…。」

ファラデーは貴族ではありませんでしたが、階級に阻まれたからといって、学問を諦めたりはしませんでした。彼は幾夜もかけて、デイビーの講演の内容を一冊の本に製本しました。

マイケル・ファラデー「主よ、私は人の役に立ちたいのです。人類のためになりたい。あなたが愛を持っておつくりになった、偉大な円の一部になりたい。私は、あなたのしもべです。」

ハンフリー・デイビー卿「素晴らしいよ、ファラデー。で、これから君はどうしたいんだ?」

ファラデー「金のために働く毎日から、足を洗いたいんです。金儲けは悪徳で、利己的ですから。科学の僕となって、その発展に尽くせれば。どんなに楽しく、自由かと。」

ハンフリー卿「たはっ。…そうか。実際どうかは、君も経験してみればわかるだろう。今は何の仕事もない。もしあったら連絡する。」

デイビーの屈辱的な扱いにも、科学の道に進みたいというファラデーの決意は揺らぎませんでした。やがて彼の忍耐が報われるときが来ます。

ファラデーのチャンス

(実験に失敗するハンフリー・デイビー卿)

ハンフリー・デイビー卿「あ、うわぁーっ!」

(デイビー卿は目を怪我して、助手のニューマンに、新たに加わる助手として、ファラデーを紹介する)

ハンフリー・デイビー卿「ニューマン、マイケル・ファラデー君だ。目が治るまで来てもらう。信仰に篤い男だから安心しろ。神とファラデー君が実験をしてくれれば、私と君は安全だ。」

ニューマン「ありがとうございます。よろしく、ファラデー。」

ファラデー「こちらこそ。本当に、ありがとうございます。」

デイビー卿「言われたことだけきちんとやってくれれば、それでいいから。」

こうして実験助手となったファラデーは、デイビーが与えてくれる知識を、むさぼるように吸収しました。そして間もなく、弟子は師を超えるのです。当時の最大の注目は、電気でした。

ハンフリー・デイビー卿「電気を流せ。」

電池が発明されたおかげで、様々な実験が可能になりました。しかし、電気とは何なのかを理解している者は、誰もいませんでした。

S・ジェームズ・ゲイツJr. 物理学者 メリーランド大学「当時の科学者たちは電気を、パイプの中を流れる液体のようなものだと考えていました。しかし1820年に、デンマークの物理学者が銅線に電気を流し、そのそばに方位磁石を置くと、針が動くことに気付いたのです。」

科学者たちは初めて、電気が磁石に影響を与えることを知りました。互いに関係ないと思われていた二つの現象。電気と磁気との間には、何らかのつながりがあるのです。

ハンフリー・デイビー卿「ファラデー、見てみろ。君はこの現象をどう考える。エルステッドが報告した現象を、再現しているんだ。」

貴族A「磁石を反対側に置いてみよう。」

貴族B「なんてことだ…。すごい、驚いたね。」

貴族A「もし銅線の中を動いている電気の影響なら、なぜ磁石の針は銅線と並行にならないんだ?」

ハンフリー・デイビー卿「確かに。」

貴族B「全体の向きを変えてやってみよう。」

ハンフリー・デイビー卿「よし、流せ。」

貴族B「さてと…電気はこの方向に流れていて、磁石はこっちを指している。いったいどういうことだ?」

ファラデー「ひょっとすると、電気は流れながら、目に見えない力を出しているんじゃないでしょうか。」

ハンフリー・デイビー卿「は?」

ファラデー「もしかしたら、電気の何らかの力が、銅線から放出されているのかも。」

貴族A「おいおいファラデー、教えてやろう。ケンブリッジ大学では、電気は銅線の中を流れてるんだ。外に出ることはない。」

ファラデー「ケンブリッジの常識では、この現象の説明はつきませんよ。」

ハンフリー・デイビー卿「言い争いはよせ。次は、磁石を銅線の下に。」

なぜ磁石の針は、銅線に対して直角になるのか、なぜ電気が磁石に影響を与えるのか。デイビーたちは理解できませんでした。

ファラデーの天性

牧師「マイケルとサラの結婚を心から祝福する…。」

ファラデーはこの現象の解明に夢中になりました。彼の熱意を支えたのは、信仰でした。この現象を理解することは、神の謎を理解する事だったからです。

牧師「同志の一人として…。」

デイビッド・ボダニス 作家「ロンドンに、サンデマン派という小さなグループがあります。宗派までいかない、クエーカーのような、小さなグループです。ファラデーは、そのメンバーでした。彼らは、全てのものは神によって統一して作られているので、その一部を紐解けば、すべてが関連していることが分かると信じていました。」

S・ジェームズ・ゲイツJr. 物理学者 メリーランド大学「ファラデーはアインシュタインのように、物事を絵に描いて考えるタイプでした。」

デイビッド・ボダニス 作家「ファラデーは、実験の結果が何を示しているかを見抜く、天性の勘を持っていました。」

磁石を銅線の周囲に置いてみたところ、ファラデーはあるパターンに気付きました。

デイビッド・ボダニス 作家「力は真っ直ぐ伝わるという当時の常識に、ファラデーはとらわれませんでした。銅線の周囲に、目には見えない力の線があると考えたのです。磁石から出ている力が、銅線から出ている力の線の影響を受ける。旗が風にはためくように。」

世紀の実験

ファラデーの素晴らしさは、これを逆にしてみたらどうかと発想したことです。銅線が磁石の針を動かせるのなら、逆に、磁石が銅線を動かせないかと考えたのです。

ニューマン「こんな実験初めて見る。子供みたいに楽しそうだ。」

ファラデー「震えてるよ。足が、がくがくする。」

ファラデー「見たかジョン!見たか?」

ニューマン「ああ!」

S・ジェームズ・ゲイツJr. 物理学者 メリーランド大学「これは世紀の実験でした。電気モーターが発明された瞬間です。同じ仕組みで、磁石と銅線を大きくすれば、もっと重たいものでも動かせるのです。新しい物理学の扉を、彼が開いたのです。」

ファラデーは気づいていませんでしたが、この実験は非常に重要な原理を立証していました。電池の中の化学物質が、電気に変化して銅線の中を流れ、それが磁石と影響し合って、運動を生み出す。これらの後ろには、共通するエネルギーがあったのです。

ロイヤル・ソサイエティへの入会

デイビッド・ボダニス 作家「その数か月前、デイビーは、イギリスの自然科学研究の中心、ロイヤル・ソサイエティの会長に選ばれていました。彼がファラデーの偉大な発見に嫉妬したかどうかはわかりませんが、鍛冶職人の息子に過ぎない助手が、ヴィクトリア朝時代最大の発見の一つを成し遂げたことは、わかったはずです。」

S・ジェームズ・ゲイツJr. 物理学者 メリーランド大学「デイビーは、ファラデーが、同じくイギリスの著名な科学者、ウィリアム・ウラストンの研究を盗んだと非難しました。」

貴族A「それで?ウラストンからは何て言ってきたんだ?ファラデー。」

ファラデー「手紙には、気分を害してなどいないし、君の発表は盗作などではないと書いてありました。」

貴族B「当然だよ。デイビーにも困ったものだ。」

ファラデー「申し立てを取り下げてくれるでしょうか。」

貴族A「いや、残念だが、君がソサイエティの会員になることにも猛反対しているらしい。」

ファラデー「そうですか。あなたの意見は。」

貴族A「それはもちろん僕は、賛成に一票だ。」

貴族B「僕もだ。ウラストンだって賛成するさ。」

ファラデー「ああ。面倒だな。」

貴族A「いや、心配するな。肝心なのは科学だ。ところでなぜ、銅線が磁石の周りを回るんだい?どんな神秘的な力が、働いているんだ?」

ファラデー「電気と磁気は、相互に影響し合っているんじゃないかと思うんです。僕の目には、電気が流れている銅線から、渦を巻くように、力の線が出ているのが見える。らせん状の網のように。」

貴族A「目には見えない力の線が出てるって言われてもな。あいまい過ぎる。」

デイビー卿「ファラデー、ちょっと来てくれ。」

ファラデー「わかりました。」

「ファラデー、思い上がるな。協会への立候補を取り下げたまえ。」

「お言葉ですが、取り下げる理由がありません。私を推薦してくれたのは、友人たちなのですから。私は取り下げません。失礼。」

ファラデーは、ロイヤル・ソサイエティの会員に選ばれました。デイビーは5年後に死去。原因は、ガスの吸引のし過ぎでした。のちにファラデーの、目に見えない力の線という考え方は、エネルギーという新しい概念へと発展していきました。ファラデーは、物理学に大革命を起こしたのです。

アインシュタイン

〔1885年 ドイツ ミュンヘン〕

そんなエネルギーが満ち溢れた環境で、アインシュタインは育ちました。

アインシュタイン「父と伯父は、ドイツの街の通りに、電灯を立てて儲けようと考えた。私は子供のころから、機械を見たり、物事の仕組みを考えるのが好きだった。」

(註:従業員の工程で、ショートして火花が散る。)

アインシュタインの父「あれじゃじき死ぬ。アルバート、ここにいろ。」「おい、危ないぞ何をしてる!そのやり方じゃいずれ事故が起きるぞ。工場を丸焼けにする気か。よせ!私に貸せ!」

アインシュタイン「父から貰った方位磁石で、私は奇跡を体験した。私は思わず身震いした。目には見えない力がそこにあることが、はっきりわかったからだ。高校時代私は、自分の好きな科目だけに熱中していた。興味があったのは物理学、数学、哲学。そして、バイオリンを弾くことだけ。ほかは退屈だった。」

先生「アインシュタイン!座ってるんじゃない!地質学に関する事なら何でも知っているといわんばかりだな。では聞くが、このあたりの岩石層はどうなっている?」

アインシュタイン「ああ…どうなっていようが、岩は岩でしょ?先生。」

教師たちは、それまでの常識にもとづいてエネルギーは1つの形態から別の形態へ変われると説き、それらエネルギーの全ての形態は、すでに発見されたと教えました。しかしアインシュタインは、さらにほかのエネルギーがあることを証明し、それがほかの科学者が考えもしなかった場所、物質の内部に潜んでいることを発見するのです。

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