Ex-Terran

スター・トレックを科学する

イントロダクション

「スター・トレックは、いつか人は、よその星に行けるのだという希望を与えてくれます。」

「太陽系以外の惑星を探すのは、子孫を守るためです。」

「人類が生き残るためには、住処を宇宙へと広げるのも、一つの方法でしょう。」

「地球に、あとどれだけ時間が残されているのかは、わかりません。」

「人は、未知の場所を見つけたら、行ってみたくなるものだ。」

「かつてSFとみなされていたことの多くは、いまや科学的事実です。」

「スター・トレックのような宇宙旅行は、可能なのでしょうか。」

<スター・トレックの世界を科学する>

J.J.エイブラムス「スター・トレック イントゥ・ダークネス」監督

2009年以降に手がけた「スター・トレック」では、オリジナルの精神を、現代風にアレンジした。
原作者のロッデンベリーは、人類未踏の地への冒険譚を描いた。
我々も、同じ世界観を再現しようと努めている。
オリジナルのファンも納得できる作品にしたいが、そうでない人も楽しめるよう、配慮した。

サイモン・ベッグ スコッティ役

やあ。スコッティだ。
僕の職場は、階下の機関室。
J.J.がいるので、ブリッジに入れない。
それで泣く泣くターボリフトにいる。

J.J.エイブラムス「スター・トレック イントゥ・ダークネス」監督

ロッデンベリーに敬意を払い、船のデザインも踏襲した。
アレンジは加えたが、全体の印象は変えてない。
円盤部やナセルを始め、全体の形状は、懐かしのエンタープライズだ。

船のスケール感を出すのにも努め、リアルで巨大に見えるようにした。

ケイレブ・シャーフ コロンビア大学 宇宙生物学者

興味深いことに、宇宙船エンタープライズの設計には、我々科学者が見ても、目立っておかしな点はありません。
ある意味、実用的です。
全体の構造もよく考えられており、エンジンの位置や大きさ、クルーの居住空間の配置にも、問題はありません。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

エンタープライズのコンセプトが素晴らしいのは、一つの都市の自立した機能がまるごと、宇宙船に搭載されているという点です。

ポール・ドハティ サンフランシスコ科学博物館

いわば、航空母艦のようなイメージです。
数千人のクルーが乗っており、全員に、食料や水を供給せねばなりません。
動力源も必要です。

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

船には、通信士や科学者、エンジニア、指揮官も必要です。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

医療設備は欠かせません。
学校や、ごみ処理場もね。

マーク・ミリズ 推進物理学者

宇宙船を動かすための莫大なエネルギーを、安全かつ、制御可能な方法で生み出さなくてはなりません。

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

何らかの手段で、宇宙を速く移動させなければ、探査に旅立った人々は、生きて目的地に行けません。

ブライアン・バーク「スター・トレック イントゥ・ダークネス」製作

1作目の撮影では、ブリッジや転送室などのセットを、別々のサウンドステージに作っていました。
今回は、もっと大きなステージで撮っています。
本作では、船内をできるだけ広く見せたいと思いました。
そこで、エンタープライズのセットを、すべて同じステージに作り、お互いにつなげたんです。
おかげで、ブリッジを出て廊下を進むと、吹き抜けの広間から様々な方向に行けるようになりました。
廊下をさらに進むと転送室にも行けるし、医療室にも行ける。
あちこちにターボリフトもあるので、セットではなく本物の宇宙船のなかを歩いている気分になれます。

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

もし本当に、遠くの銀河へ行くには、どんな宇宙船を作るべきでしょうか。
エンタープライズは、いい見本になります。

マーク・ミリズ 推進物理学者

初めて見たときは、ロケット型でないところに惹かれ、なぜあのような形にしたのだろうと思いました。

デヴィッド・ブリン 物理学者/SF作家

エンタープライズは、キャプテン・ロジャーズに出てくるような、古い宇宙船のイメージを打ち壊しました。
昔の宇宙船は細長くて、船尾から着陸するものでした。

エンタープライズは、海をゆく船です。
オーストラリアを発見したキャプテン・クックの船や、チャールズ・ダーウィンが乗った、ビーグル号のようにね。
これらの船には戦闘能力がありました。

しかし同時に科学者が乗り、船長は、外国との交渉を行うことができました。
人類は将来、自らの文明をこのような船に乗せ、遠くの星々を、目指すことになるでしょう。

「スター・トレック」(2009年)

ロミュランとの交渉に応じる用意がある。

私は代表ではない。

J.J.エイブラムス「スター・トレック イントゥ・ダークネス」監督

子供のころ、科学に基づくSFに強い刺激を受けた。
たとえば突然変異の概念は、「ゴジラ」や「ザ・フライ」を生んだ。
宇宙旅行は、長く孤独だという考えから、「ミステリー・ゾーン」の第1話が生まれた。
これらのSF娯楽作品は、僕に大きな影響を与えた。
僕は、人が月に行く時代に育った。月面着陸は驚くべき偉業だが、当然の出来事だと感じてもいた。
僕より前の世代にとって宇宙旅行は、奇跡的な事件だったはずだ。だが僕には、ごくまともで、当たり前の現実だった。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

かつて月や火星に行くことはSFでしたが、今や人は月に降り立ち、ロボットを火星に送っています。
1世紀以上前の1902年に作られた、最初のSF映画、月世界げっせかい旅行では、人が月にたどり着き、奇妙な生き物に遭遇します。
当時から、すでに人は月へ行くことを夢見ていたんです。

J.J.エイブラムス「スター・トレック イントゥ・ダークネス」監督

100年以上前に、「月世界旅行」を見た人々は、さぞ驚いただろう。
その後、時代は変わり、人類は月に到達して、地質調査も行った。
だが最も重要なものは、変わっていない。
それは地球の外の世界を知りたいという我々の本能、人間本来の好奇心や冒険心だ。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

もし将来、太陽系の外にある惑星に行けるような、高度な宇宙船が開発されたとしたら、たとえ、片道旅行になる可能性があっても、乗る人はいるはずです。
外の世界を知りたい人間にとって、星は究極のフロンティアですからね。

マーク・ミリズ 推進物理学者

もし本当に遠くの星へ行くことになれば、二度と家族には会えなくなるでしょう。
友人たちにも別れを告げてから、出発しなくてはなりません。
でも、たとえすべてのきずなを失うことになっても、宇宙旅行は魅力的です。

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

人類は進化の過程で、常に新しい場所を開拓し、その土地を理解しようと努めてきました。
すでに地球上では、あらゆる場所に進出しています。
南極には研究基地を建て、深海でも探査を行ってきました。
唯一残ったフロンティアは、宇宙だけです。
人は、太陽系以外の惑星へ行き、未知の文明に出会えるのでしょうか。
この質問の答えは、簡単には出ません。
スター・トレックのような宇宙旅行は、可能なのでしょうか。

急がないと。
高温でシャトルが破損する。

住民に姿を見られました?

いや、大丈夫だ。

文明の発展への干渉は規則違反です。

わかってる。

高度なテクノロジー

デヴィッド・ブリン 物理学者/SF作家

スタートレックには、高度なテクノロジーが数多く登場します。
夢のようなマシンがね。
あまりに突飛なものについては、まだ実用化のめどが立っていません。
しかし多くのマシンは、すでに世の中に出ています。

こちらカーク。

たとえばコミュニケーターは、携帯電話に似ています。
懐かしの折り畳み式ですけどね。

人間は常に進歩しようとしますが、科学も、スタートレックもしかりです。
アインシュタインは、ばかばかしくないアイディアに望みはない、と言いました。
その心は、科学を発展させたいのであれば、今までにない発想をすべきだ、ということです。
視野を広げ、大胆な仮説を立てるのです。
一見ばかばかしいようなアイディアでも、突き詰めると正しいのではないかと思えてくることがあります。
突飛だけど、真実なのだとね。

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

スタートレックの世界に最も大きな科学的根拠を与えたのは、アインシュタインの革命的な理論でしょう。

ポール・ドハティ サンフランシスコ科学博物館

アインシュタインの相対性理論は、宇宙のメカニズムを解明するものでした。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

相対性理論は、新たなエネルギー源をもたらしました。
それは核エネルギーで、エンタープライズのような、未来の宇宙船の推進システムにもなり得ます。
しかし残念ながら、相対性理論はひとつの制約も課しています。
光より速いものは存在しないということです。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

光の速度は、毎秒およそ30万キロです。
これは究極のスピードリミットで、どんな粒子も、これより速く宇宙空間を進むことはできません。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

相対性理論は、いわばもろ刃の剣です。
いっぽうでは、宇宙船に強力な動力源を与えながら、宇宙を移動できる速度には、限界があるというのですからね。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

アインシュタインはまた、物体は早く動かすほど重くなると気づきました。

ケイレブ・シャーフ コロンビア大学 宇宙生物学者

つまり、ネズミのような小動物も、加速していけば、やがて象のように重くなります。
象を動かすには、ネズミを動かすときより、ずっと大きなエネルギーが必要です。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

ちりのように小さなものでも、光と同じ速度で動かすには、無限大のエネルギーが要ります。

マーク・ミリズ 推進物理学者

無限大のエネルギーは、そう簡単には得られません。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

そのため、光より速く移動するのは、不可能だと考えられるようになりました。

マーク・ミリズ 推進物理学者

光の速度を超えるのは難しいですが、不可能と決まったわけではありません。
もし可能になれば、人類の未来は大きく変わるでしょう。
子供のころ、私はスタートレックを見て、科学者を志すようになりました。
将来は自分の手で、宇宙旅行を可能にしたい、とね。

私の仕事を一言で説明すると、SFを科学に置き換えることです。
つまり、スタートレックなどに出てくるテクノロジーを、どうアレンジすれば、実現できるか探っています。

楽しかったな。

船を海底に隠すなんてバカげてる。

スポックはどこだ?

まだ火山に。

マーク・ミリズ 推進物理学者

スタートレックに登場する概念は、科学になりつつあり、大学院の相対性理論の教科書には、ワープドライブや、ワームホールについて問題が出てきます。
明らかに、スタートレックの影響でしょう。

スポックと通信できるか?

灼熱地獄にいるけど、可能です。

私は以前、光の速度の突破を可能にするかもしれない、最新の物理学を研究していました。
スタートレックについていえば、人類未踏の地に行くことは、難しくありません。
今まで誰も足を踏み入れていない山に登ったり、探査機を少し遠くに飛ばすだけで、達成できます。
しかし、遠くの恒星に行くことは、全く次元の異なる挑戦であり、至難の業です。
そのような技術革新が可能なのかはわかりませんが、もはやそれが、単なるSFでなくなったのは、確かです。

光の速度

ケイレブ・シャーフ コロンビア大学 宇宙生物学者

欧州合同原子核研究機関CERN
スイス

ヨーロッパにあるCERNセルンでは、世界最大規模、かつ、最先端の物理実験が行われており、大型ハドロン衝突型加速器の試運転も、その一つです。
ヒッグス粒子の精製など、実験は、多岐にわたります。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

2011年に、CERNセルンの研究者は重大な発表をしました。
ニュートリノという風変わりな粒子は、光より速く移動できる可能性がある、というのです。
もし事実なら、正規の大発見でした。
スタートレックの宇宙船エンタープライズは、光よりずっと早く移動できます。
しかしどんな物質であれ、光より速く飛ばすことができるとは、思えませんでした。

マーク・ミリズ 推進物理学者

CERNセルンの発表を初めて聞いたとき、こう感じました。
ああ、面白くなってきたぞ。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

正直なところ、この手の話を聞いたときは、かなり疑ってかかった方がいいでしょう。
たまにあるんです。
ある実験の結果、光より速い物質が見つかった、アインシュタインは間違っていたぞ、と騒がれることはね。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

結局、大方おおかたの科学者が予想した通り、実験には不備がありました。
ケーブルにゆるみがあり、速度が正しく測れていなかったのです。
ニュートリノは実際には光と同じか、それ以下の速度しか出ていませんでした。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

こうして、ニュートリノが光より速いという説は、退けられる結果となりました。
アインシュタインは、汚名を返上したのです。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

相対性理論は無敵です。
光より速い物質がないことは、これまで幾多の異なる実験によって、確認されてきました。

マーク・ミリズ 推進物理学者

それでも、銀河系の広さを考えれば、光はゆっくりです。

ケイレブ・シャーフ コロンビア大学 宇宙生物学者

1光年とは、光が1年間に進む距離を表します。

サラ・シーガー MIT 惑星科学&物理学者

1光年は、およそ9.4兆キロメートル。
換算するよりずっと楽なので、光年が使われます。

ケイレブ・シャーフ コロンビア大学 宇宙生物学者

宇宙のなかでは、長い距離ではありません。
最も近い恒星までは、およそ4光年。
私たちが暮らす銀河系の端までは、数万光年。
宇宙はその先にも、何億光年と広がっています。

マーク・ミリズ 推進物理学者

既存の技術しか使わなければ、隣の恒星まで行くのに、およそ8万年もかかってしまいます。
スタートレックのように、星々のあいだを気軽に行き来できるようになるためには、船内の重力をコントロールできる仕組みを作り、光より速い移動手段と、それらの装置を動かせるだけの強力なエネルギー源を見つけねばなりません。
もし光より速い宇宙船を開発できなければ、映画のような楽しい旅は、あり得ないでしょう。

「スター・トレック」(2009年)

今日は何日スターデイトだ?

宇宙歴スターデイトで?
2233.04だ。
…どこから来た?

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

宇宙はいわば、タイムマシン。
宇宙を見れば、過去に遡れます。
夜空にきらめく美しい星たちは、地球から数百光年から数千光年離れた場所にあります。
つまり、星々が放った光は、数百年から数千年をかけて、地球に届いたことになります。
今の星が見えているのではありません。

ケイレブ・シャーフ コロンビア大学 宇宙生物学者

光が届くのには時間がかかるので、見えるのは、膨大な宇宙の歴史です。

ポール・ドハティ サンフランシスコ科学博物館

だからたとえば、アンドロメダ星雲を観察すると、その姿も位置も、100万年以上前のものなんです。
宇宙は、タイムマシンです。

リック天文台
カリフォルニア州ハミルトン山

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

この望遠鏡で我々は、乙女座70番星を公転する惑星を、発見しました。
70番星が放つ光は、59年をかけてこのリック天文台に届きます。
実はこの望遠鏡が設計されたのは、ちょうど59年ほど前のことです。
そのころ70番星が放った光を、59年後の今、私たちは観測しているわけです。
もし、乙女座70番星の近くに知的生命体が住んでいれば、もちろん、彼らも地球を眺めているかもしれません。
その場合、彼らが見ている地球は59年前の姿です。

彼らが見ているのは、アイゼンハワー大統領のもと、宇宙開発時代がまさに幕を開けたばかりの地球でしょう。
そう考えると、わくわくします。
ほかの知的生命体が、まるでタイムマシンに乗ったかのように、時をさかのぼって地球を見ているんです。
今ここに暮らす私たちでなく、過去の人類をね。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

現在の物理法則によると、光より速い宇宙船は作れません。
しかし、もし光の10分の1の速度を達成できれば、相対性理論に反することなく、しかも、地球に最も近い恒星、アルファケンタウリには、10万年ではなく、43年で到達できます。
画期的な推進システムを開発できれば、せめて光の何割かの速度で、目当ての星に行けるようになるでしょう。
そうすれば、ミッションの期間を数千年から数十年に短縮できます。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

人類が太陽系以外の惑星に降り立った瞬間は、歴史的なものとなるでしょう。
ついに人は未知の世界に到着したと、私たちはみな、感動するはずです。

システムが起動。
動力が回復しました。

J.J.エイブラムス「スター・トレック イントゥ・ダークネス」監督

SF作品を手がけるときはいつも、物語の異様さや、奇抜さに衝撃を受ける。
だが科学の世界では大抵の場合、もっと驚くべきことが現実に起きている。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

アインシュタインは、時間の遅れという現象を予測しました。
とても起こるとは思えないような現象ですが、起こります。

デヴィッド・ブリン 物理学者/SF作家

あるものが速く移動すれば、動いているものにとっては、時間の流れが遅くなるという現象です。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

速く動けば動くほど、時計の針の進みは遅くなります。
そして光と同じ速度で移動する者にとっては、時間は全く流れなくなるのです。
地球から何光年も離れた星に向かって旅をする者にとっては、時間の遅れはいいことです。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

もし、光に近い速度で宇宙を飛べば、たとえ遠くの星に行ったとしても、旅行者の体や時計、マシンにとっては、時間がほとんど流れないことになります。

マーク・ミリズ 推進物理学者

ただし、問題は帰ってくるときです。
地球に暮らす天文学者の娘が、59光年離れた乙女座70番星へ旅をしたとしましょう。
彼女は光に近い速度で星へゆき、帰ってきます。彼女にとっては一瞬の出来事でしょうが、地球の人々にとっては、およそ120年が経っています。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

一種のタイムトラベルです。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

旅行帰りの人は歳を取っていなくても、地球上で何百年も何千年もが過ぎていれば、家族や友人は、みな亡くなっているでしょう。

デヴィッド・ブリン 物理学者/SF作家

時間の遅れ現象は、粒子加速器を用いた実験で、実証されています。

マーク・ミリズ 推進物理学者

この現象が起きることは確認されていますが、なぜ起きるのかはわかりません。

惑星の探求

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

科学は昔から好きでしたが、天文学に興味を持ったのは、高校一年のときです。
人にもらった小さな望遠鏡で3つ目に観察した星は、土星でした。
息を飲む美しさでした。
スタートレックは、大学院のころ、友人たちと見ていました。
勉強の合間の息抜きにぴったりの、楽しいテレビドラマでした。
ときに、SFに登場した概念が、科学技術の発展に役立つことがあります。
スタートレックの場合もそうです。

宇宙を探査して理解し、その仕組みを解き明かしたいという思いは、私を含め、多くの科学者が持っています。
それは、スタートレックのミッションでもあります。
見知らぬ世界を探検し、勇気をもって、人類未踏の地に向かうのです。

グレゴリー・シャミトフ宇宙飛行士が
撮影中のセットを訪れた

いいね。

本日のゲスト、シャミトフ飛行士は、フェイザー銃を宇宙に持ち込んだ。

グレゴリー・シャミトフ宇宙飛行士

どうも。
エンタープライズに乗るなんて、変な気分です。
フェイザー銃は…このフェイザー銃は私物です。
宇宙で一番カッコいい。
前回、エンデバー号に乗ったとき、これを持っていきました。
皆さんに話すための仕込みじゃありませんけどね。
私は「スタートレック」が昔から大好きでした。
このシリーズは、単なる娯楽大作ではありません。
前作は、今まで見たなかで、最高の映画です。
ともかく本作は、次世代の子供たちに夢を与えるはずです。

本物の宇宙は最高です。
みなさん、映画で宇宙を見ているでしょう。
この目で見た地球はイメージ通り、宇宙に浮かんでいたので感動しました。

サラ・シーガー MIT 惑星科学&物理学者

スタートレックは、惑星科学者にとって、有り難い存在です。
人に、新しい惑星を見つけたというと、みんな、発見を喜んでくれます。
スタートレックのおかげで、太陽系以外の惑星があることを、知っているんです。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

もし将来、人が太陽系以外の惑星に到達する日が来れば、人類のその後は大きく変わるでしょう。
飛行士が未知の惑星に降り立った瞬間、宇宙探査の新たな時代の扉が開くのです。

よし、突っ切るぞ。

あんな狭い隙間、とても通れません。

通れる。

無理です。

通れるんだよ!

J.J.エイブラムス「スター・トレック イントゥ・ダークネス」監督

リアルな宇宙の映像は、作り出せる。
だが本物の宇宙旅行のことは、夢想するだけだ。
昨夜も星を見上げ、壮大な旅になると思った。
“あの空の果てに、人類が行ったら”と、考えただけで圧倒される。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

なぜ遠い星の周りを回る惑星を探す必要があるのでしょうか。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

新たな惑星は探さなくてはいけません。
あと地球にどれだけ時間が残されているか、わからないからです。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

地球で何らかの大惨事が起きれば、人類は絶滅する恐れがあります。
小惑星が地球に衝突すれば、6,500万年前、恐竜が滅びたときのように、生き物の3分の2が死滅するかもしれません。

マーク・ミリズ 推進物理学者

気候変動がこのまま続けば、やがて地球は、人の住める環境でなくなる可能性もあります。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

太陽からの大規模なコロナ質量放出も脅威になり得るし、我々は核戦争によって、自滅するかもしれません。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

こうした危機に備えて、我々は技術を発展させ、遠くの星に行ける手段を手に入れる必要があります。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

私たちが太陽系以外の惑星を探す理由の一つは、人類を絶滅から救うためです。
子孫がほかの星に移住できれば、滅びずに済みます。

デヴィッド・ブリン 物理学者/SF作家

私たちを惑星探しに駆り立てているのは、強い探究心です。
地球に似た星はあるのか、そうした星は将来、人類の住処になり得るのか、とね。

私はもともと、惑星や彗星を研究する、天体物理学者でした。
ただし、趣味で小説も書いていたんです。
たまに趣味を生業にする人がいますが、私もやがて、研究より、小説の執筆で稼ぐようになりました。

スタートレックが始まったとき、私は15歳でした。
それ以前から科学者になりたいと思っていた私が、スタートレックを嫌いになる確率は、限りなくゼロに近かったでしょう。
もちろん、夢中になりました。
おかげで私の視野は広がりました。
スタートレックは私に、人間の文明社会は、冒険を恐れず、変化していくものなのだと、教えてくれたのです。

ジム。捜したぞ。

なぜ?

健康診断だ。

デヴィッド・ブリン 物理学者/SF作家

ジーン・ロッデンベリーの描いた未来の世界では、私たちの遠い子孫が、より良い世界を築いていました。

J.J.エイブラムス「スター・トレック イントゥ・ダークネス」監督

ロッデンベリーは、争いのない未来を考えた。
親であれば誰しも、彼の思い描いた未来が実現することを願う。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

17~8年前、私は太陽系以外の惑星を探そうと思い立ちました。
そして、そのための手法を開発したいと、同僚や周りの天文物理学者に話すと、彼らは急に視線を落として足をもじもじさせ、話題を変えました。
当時、太陽系以外の惑星を探す人は誰もいませんでした。
そのような試みは、緑の宇宙人を探したり、人間の転送方法を探るのと同じく、SFじみているとみなされていたんです。

マーク・ミリズ 推進物理学者

太陽系の惑星と区別するため、それ以外の惑星は、系外惑星と呼ばれます。
人類は将来、せめて一つの系外惑星に移住すべきでしょう。
18年前、ジェフ・マーシーは、彼にとって初となる系外惑星を発見しました。

リック天文台
カリフォルニア州
ハミルトン山

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

リック天文台にある、このシェーン望遠鏡では、多くの歴史的発見がなされてきました。
私が初めてここを訪れたのは1980年代、太陽以外の恒星の周りを公転する惑星を探すためでした。
これは惑星探索に、最適な望遠鏡でした。
この巨大な望遠鏡は集光能力に優れているので、かすかな星の光も検出できます。
強みはもう一つありました。分光装置です。

ポール・ドハティ サンフランシスコ科学博物館

高性能の分光装置で、わずかにふらつく星からの波長の変化も捉えることができました。
マーシーは、新たな惑星を次々と見つけました。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

線路脇に立って、通過する列車の汽笛を聞くと、列車が近づくときと遠ざかるときとでは、音が違って聞こえます。
再現するとこんな感じです。フー…ウウー…。
列車が近づくのか遠ざかるのかは、音の高さ、つまり音の波長の変化でわかります。
同じ原理を使えば、星からの光も解析できます。
ある恒星が地球に近づいているのか遠ざかっているのかは、光の波長の変化で見分けられるのです。
この方法なら、恒星が動いているのか、止まっているのかがわかります。
恒星が動いていれば、公転する惑星の引力に引っ張られているということです。
その惑星は、地球から見えなくてもね。

ケイレブ・シャーフ コロンビア大学 宇宙生物学者

惑星と一口に言っても、木星のようなガスの塊もあります。
鉱物資源の豊かな惑星もあるでしょう。
表面全体が氷、もしくは、深さ数百キロの海に覆われた惑星もありそうです。

サラ・シーガー MIT 惑星科学&物理学者

さまざまな惑星があります。
ミニ海王星と呼ばれるタイプは、地球の2~3倍の大きさです。
炭素の惑星には、ダイヤモンドが眠っているかもしれません。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

はっきりしているのは、系外惑星が見つかったからといって、ニューヨーク株式市場の株価は、上がりも下がりもしないということです。
ナスダックの株価も動きません。
惑星探しでお金は儲からないんです。
しかし、系外惑星を研究すれば、私たちの暮らす太陽系、とりわけ地球について、新たなことがわかります。
私が惑星探索を始めたころ、そんなことはプロの仕事ではないと考えられていました。
同僚にも、研究者はもっと慎重で保守的であるべきだと忠告されました。
パイオニアは、成功するまで苦労の連続ですが、高い志を持っています。
何かを発見することで、未来の社会と科学に貢献したいという思いです。

映画クルーは4日間
異星のセットで過ごした。
2作目の冒頭に登場する
惑星ニビルのセットだ

J.J.エイブラムス「スター・トレック イントゥ・ダークネス」監督

ニビル星のジャングルは赤い。
地球にはない景観を意識した。
オリジナルと同じ試みだが、より現実感を出した。
ロッデンベリーは、人類未踏の地へ向かう勇気を描いた。
人がいつか、新たな月や惑星系に到達できることを願う。
どんな旅になるか楽しみだ。

こんなのイヤだ!

わかるよ。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

人類は生き残るため、一刻も早くほかの惑星に進出しなくてはなりません。
しかし、地球には私たちの居住を可能にする特性が、いくつかあります。
たとえば、気温がちょうどいいので、水は液体のまま、地表に存在できます。

ポール・ドハティ サンフランシスコ科学博物館

ある系外惑星が、地球のように恒星から適度に離れ、大気を持っていれば、ゴルディロックス・ゾーンにあるといえます。
この名称は、適温のオートミールが出てくる童話に由来します。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

ジェフ・マーシーの予測によれば、ゴルディロックス・ゾーンにある惑星の数は、全惑星の15から50パーセントに上るそうです。

ポール・ドハティ サンフランシスコ科学博物館

現在稼働中の、ケプラー宇宙望遠鏡は、常に15万個もの構成を観測し、そのなかに惑星を伴うものがないか、探しています。

サラ・シーガー MIT 惑星科学&物理学者

ケプラー計画は、重要な疑問への答えを探るものでした。
地球のような星はどれだけあるのか。
生命は様々なタイプの惑星にいるでしょうが、地球に似た星なら、その可能性は高そうです。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

振り返ってみると、わずか20年前には、人類の知っていた惑星は、全宇宙で、太陽系に属する8つだけでした。
準惑星の冥王星を入れても、9つ。
ほかは知らなかったのです。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

ケプラーの観測結果を踏まえると、おそらく、夜空に見える星のうち、多くのものは惑星を伴っています。
銀河系だけで、惑星は1千億個もあります。
そのうち地球型のものは、10億個ほど存在するでしょう。

ワープドライブ

ケイレブ・シャーフ コロンビア大学 宇宙生物学者

もし地球に似た惑星が、乙女座70番星の周りを回っていたら、行くべきです。
ただし、今ある宇宙輸送システムでは、70番星にたどり着くまでに、恐らく、数十万年はかかるでしょう。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

もしも奇跡が起きて、光に限りなく近い速度で移動できるようになったとしたら、宇宙船に1年乗るあいだ、地球上では223年が経過します。

マーク・ミリズ 推進物理学者

ですから、もし光に近い速度で宇宙を軽くドライブして家族に見せようと写真を撮って、地球に帰ってきても、家族はとっくの昔にこの世を去り、写真は見せられないでしょう。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

スタートレックの宇宙船エンタープライズは、この時間の遅れの問題を、ワープドライブで解決しています。

係留を解除。

了解。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

ワープで行き来すれば、地球に戻ってもわずかな時間しか経っていません。

チェコフ、どうだ?

システムは異常なし。ワープの準備完了。

ご苦労。出発だ。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

彼らはこうして光より速く移動します。
しかし、私たちは真似できません。
現在の物理学では、ワープドライブは不可能です。
宇宙船を光より速く飛ばすには、無限大のエネルギーが必要になるからです。
相対性理論に基づく有名な仮説によると、もし光より速く移動できたとすれば、時間をさかのぼることになります。

マーク・ミリズ 推進物理学者

光の速度を超えることには、ほかにも制約があります。
いわゆる、タイムパラドックスが起きるのではないかという問題です。
宇宙旅行から戻ると、それは、旅行前の時点で、まだ旅行には出ておらず、過去と未来に矛盾が生じます。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

もし光より速く移動できるなら、ある事件は、過去の出来事が原因で起きたのに、それより前に、起きる可能性が出てきます。
全くむちゃくちゃな状況です。

ケイレブ・シャーフ コロンビア大学 宇宙生物学者

そんなことは起こらないでしょう。
そうでなければ、あらゆることが可能になってしまいます。
たとえば、鍋を火にかける前に沸騰したら、おかしいでしょう?

J.J.エイブラムス「スター・トレック イントゥ・ダークネス」監督

本作は、感情面でも知性面でも、リアルな物語にしたい。
科学的な正確さも重要だ。

すぐ船内に転送しろ。

魚雷も一緒に?

だがある程度、映画の嘘も入れた。
宇宙は無音だ。
一作目では当初、宇宙を音のない空間として描きたかった。
冷たい虚無の世界としてね。
結局、静かな映像だけでは迫力がないので、音も入れた。
だが、たまには音を消し、宇宙の静けさを表現している。

「スター・トレック」(2009年)

キャーッ!

〔女性クルーが宇宙空間に投げ出されるシーン。カメラが宇宙空間に出ると、無音となる。〕

そして、また音の世界へ。
こうして、リアルで迫力のある世界を作れた。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

スタートレックのなかで、ワープドライブは、おそらく最も未来を先取りしているテクノロジーです。

ケイレブ・シャーフ コロンビア大学 宇宙生物学者

ワープドライブが実用化されれば、乗組員は、一代で宇宙の果てを探査できるようになります。
そのほかの仕事も増えて、ミッション中は、家で待つ家族に連絡する暇もなくなるかもしれません。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

1994年に、メキシコ人物理学者、ニゲル・アルクビエレはこう考えました。
時空の泡を作って、そのなかに、地球と同じ環境を再現し、そこに宇宙船を入れれば、ワープさせられるのではないか。

マーク・ミリズ 推進物理学者

ある風景のなかで、車を動かすとします。
ワープドライブとは、風景を操作して、土を車ごと切り取り、そのまま別の地点へ移すことです。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

宇宙船は波に乗って、目的地まで運ばれるイメージです。
時空のなかを移動するのではなく、時空の塊そのものを動かすので、ルールが変わります。
アインシュタインは、時空が光の速度に制限されるとは、言っていません。

デヴィッド・ブリン 物理学者/SF作家

光より速く動くのではありません。
自分より後ろの空間を引き伸ばし、前の空間を縮めるんです。
これなら動きが遅くても、光より速く移動できます。

マーク・ミリズ 推進物理学者

この方法で居住可能な惑星を訪れて、地球に戻ってくれば、まだ生きている家族に、旅の話ができます。
ワープドライブが実現すれば、エンタープライズのような宇宙船を作るのも、夢ではありません。
宇宙は一気に身近になり、人は一生のうちに、いくつもの惑星系を旅することができるようになるでしょう。

ポール・ドハティ サンフランシスコ科学博物館

提唱者のアルクビエレは、スタートレックのワープドライブにヒントを得ました。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

ただし実現は、かなり難しそうです。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

ひとつ、大きな問題があります。
というのも、宇宙船の前の空間を圧縮して、後ろの空間を伸ばすには、まず目的地に行っておく必要があるからです。
前もって同じ場所を、実際に光より遅い速度で訪れておかなければならないのです。
銀河の好きな場所にワープできるのではありません。
宇宙船はあらかじめ、引かれたレールの上を、列車のようにたどるだけです。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

私たち人類に、スタートレックのような宇宙旅行は可能なのでしょうか。
可能だとしても、はるか遠くの星々に行くには、莫大な量のエネルギーが必要です。
ミッション中、乗組員の体にかかる負担も、相当なものでしょう。
それらを考え合わせると、残念なことですが、スタートレックのように、遠くの星々を旅するのは、不可能とは言わないまでも、現実的ではありません。

マーク・ミリズ 推進物理学者

惑星探査機ボイジャーは、太陽系の果てに行くのに、30年以上もかかりました。
今後、同じ速度で最も近い恒星に向かったとすると、到達するのはおよそ、8万年後になります。
もしも石器人がボイジャーを打ち上げていたら、今ごろたどり着いている計算です。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

かつてSFとみなされていたことの多くは、いまや科学的事実です。
蒸気機関車ができる前、人が出せる速度は時速30キロ程度が限界でした。
月に行くのも不可能とされていました。
音速は、超えられないとも。
ただし、これらはいずれも、今日こんにちの物理法則に反してはいません。
技術的に難しかっただけです。

この小さな一歩は…

音速を突破しました。
水平飛行では史上初です。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

ライト兄弟は飛行機を生み出し、アームストロング船長は月面に降り立ちました。
どちらも技術的に困難なことでしたが、物理法則に反するとみなされてはいませんでした。
しかし、スタートレックのような宇宙旅行には、気が遠くなるほど困難が伴います。
光の速度という壁、そして星のあいだを移動するための莫大なエネルギーです。

マイケル・ジアッキノ「スター・トレック イントゥ・ダークネス」音楽

“発進”と言って。大声で。
言わなきゃ出発できないよ。
いつまでもドックを離れられない。
…しばらく留まるか。

宇宙を旅するほかの手段

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

たとえ、光の速度を超えられなかったとしても、ほかの方法を使えば、銀河系を旅できるようになるかもしれません。
エンタープライズよりも大きな船が必要です。

マーク・ミリズ 推進物理学者

自給自足が可能な大型船を作れば、大人数で探索に出られます。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

作物を育て、あらゆるものをリサイクルできるコロニーで、何世代もの人が暮らせなくてはいけません。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

おそらく、船というより、小さな町のような住み心地になるでしょう。
人はそこで生まれ、一生を過ごすのです。
船はやがて、どこかの恒星の軌道上に落ち着くことになるでしょう。
この方法なら、超光速の宇宙船やワープを実現できなくても、ほかの星に到達できます。

ゆったりと船旅を楽しめるのですから、世代宇宙船は、なかなかおつなものです。
現代人はせっかちですが、何事も、焦りすぎるのは良くありません。
気長に行きましょう。

マーク・ミリズ 推進物理学者

既存の物理学を応用して、遠い宇宙へ旅立つ方法は、実はいくつかあります。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

まず、今後200年以内に開発される素材で、アメリカの州をいくつか合わせた程度の、巨大な帆を作ります。
この帆に、数百万ギガワットのレーザーを当てれば、推進力が生まれます。

ポール・ドハティ サンフランシスコ科学博物館

エンタープライズでは、反物質の反応を、ダイリチウムで制御し、エネルギーを得ています。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

反物質は生成できます。まだ少量しか作れませんが、理論上は、宇宙船の動力源にぴったりです。
スタートレックのクリエイターたちは、その反物質を、ワープドライブの動力源に選びました。
彼らには、先見の明があったのです。

遠い宇宙に行きたいのに、もしワープドライブも、巨大な帆も作れなかったら、核融合という手もあります。
太陽のなかで起きているのと同じ、核反応です。
国立点火施設、NIFニフでは、強力なレーザーを使い、核融合を起こそうとしています。
レーザーで核融合を起こす技術は、将来、核融合ロケットの開発に役立つでしょう。

国立点火施設NIF
8日間ロケが行われ、
集光施設ターゲットチャンバーが船の
ワープ・コアに
見立てられた

エド・モーゼス NIF副局長

NIFニフは様々な顔を持ちます。
あるときは、世界最大かつ、世界最強のレーザー。
またあるときは、最先端の物理学を研究できる、ターゲット・チャンバー。
またあるときは、映画のセット。
スタートレックのミッションは、新たな世界を切り開くことでした。
それは我々も同じです。
私の後ろにあるのは、土星の内部です。
もちろん、本物の土星のなかに入っているのではありません。
土星の内部の状況を、再現しているんです。
我々はこうして宇宙を研究し、未来を切り開こうとしています。
エンタープライズのように、さまざまな星には行きませんが、誰もたどり着いていない境地に挑んでいる点は、同じです。

魚雷の搭載を許可しろ。

これは?

時間がない。


これが何だと?

ワープ・コアだ。

爆発の大惨事が起きますよ。

J.J.たちのこの施設の活用法は、ユニークなものでした。

あー…。了解ですアイ・キャプテン

建設に10年かかったNIFニフは、稼働を始めて3年です。
核融合エネルギーがあれば、人類の未来は、大きく変わります。
ぜひ世界で最初に成功させたいです。
核融合が実現すれば、大気汚染はなくなり、気候変動も収まるでしょう。
石油や石炭の心配もせずにすみ、皆が幸せになれます。
よりよい世界を創れるんです。

システムは異常なし。
ワープの準備完了。

これは“ローソン条件”。
核融合が起こる条件よ。

J.J.エイブラムス「スター・トレック イントゥ・ダークネス」監督

NIFニフが核融合に成功すれば、ロケを思い出すだろう。
名場面を撮り、楽しく過ごしただけでなく、奇跡が起きる場所に自分たちが立てたことをね。

今日は本当に素晴らしい体験ができました。
NIFニフのみなさんに心から感謝します。
このように特別な施設で撮影できて、幸運でした。
ご協力ありがとうございました。

来ていただいたお礼に、偉大な装置の一部を贈りたいと思います。
我々の“ダイリチウム結晶”です。
このガラス板が、すべてを可能にします。

J.J.エイブラムス「スター・トレック イントゥ・ダークネス」監督

ここの科学者たちは人々の生活を変え、地球の運命を左右する技術に携わっている。
嬉しいことに、彼らの多くが科学に目覚めたのは、スタートレックのおかげだと言ってくれた。
ロケができて光栄だ。

地球外知的生命

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

スタートレックのミッションは、新たな生命体と文明を求めて、人類未踏の地を探索することです。
それは、我々SETIセティ研究所のミッションでもあります。

アレン望遠鏡群
ハットクリーク天文台
カリフォルニア州

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

私たちは、宇宙から届く電波のなかに、未知の文明からの信号がないか、探しています。
自然の電波とは明らかに異なる、知的生命体が機械を使って発生させた信号です。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

この銀河系に、高度な文明は、いくつ存在するのでしょうか。
銀河系にある2,000億個の恒星は大小さまざまですが、どれも太陽に似ています。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

生命の誕生は、地球だけで起きた奇跡なのでしょうか。
それとも、宇宙に豊富に存在する炭素化合物が結合して有機物となり、生命は簡単に誕生するのでしょうか。
それなら、生命はあちこちに存在します。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

我々のような知的生命体は、ほかにもたくさんいるのでしょうか。

デヴィッド・ブリン 物理学者/SF作家

宇宙人がいるのではないかという考えは古代からあり、ジョルダーノ・ブルーノはそのために火あぶりにされました。
そのころに比べれば、現代人はSFに寛容です。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

宇宙人と電波で交信できるのではないかという考え方は、1800年代に生まれました。

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

月に住む人々にメッセージを送ろうという試みが、19世紀の初めに、サハラ砂漠で行われました。
巨大な運河を掘って、灯油で満たし、火を灯すことで、地球には知的生命がいると知らせようとしたのです。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

20世紀初頭には、火星から電波が届くと考えられるようになりました。
マルコーニやテスラも、電波を受信したと信じていました。
ほかの惑星にいる生命体と交信したいという思いは、当時からあったのです。
そうした考えは、その後しばらく下火になりましたが、1960年ごろ、高度な宇宙文明と通信を行おうとする試みが、世間の注目と期待を集めました。

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

地球外からの電波が真剣に探査されるようになったのは、1960年、フランク・ドレイクがオズマ計画に着手してからです。
ドレイクは、初の地球外生命探査を実施、電波望遠鏡で太陽に似た二つの恒星を観測しました。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

彼は、有名なドレイクの方程式を考案しました。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

銀河系にいる、知的生命体の数を推定するための方程式です。

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

式は、7つの因子の掛け算で、最初の因子R*アールスターは恒星が誕生する確率です。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

ここから、恒星が知的生命体のいる惑星を持つ率を求めていきます。
二つ目の因子は、誕生した恒星のうち、何割が惑星を持つのかです。
答えはご存じのとおり、ほぼすべての恒星が、惑星を持っています。

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

三つ目の因子は、それらの惑星のうち、地球のように生命に適した星はどれだけあるのかです。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

適度な気温の星で、地表に液体の水がなくてはいけません。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

水の温度は、生ぬるいくらいでなければ有機物が結合して生命が誕生し、繁栄することはできません。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

その星が長い進化の歴史を持っていれば、高度な知的生命体がいる確率は高まります。

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

方程式の4つ目の因子はflエフエル
惑星に生命が誕生する確率です。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

5つ目は、それらの生命の何パーセントが、知性を持つようになるのかです。
宇宙に原始的な生物は多いかもしれませんが、人類のような知能や体の構造を持つ生命は、おそらく稀でしょう。

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

ほかの星には音で会話をする知的なイルカがいるかもしれませんが、彼らは、地球に電波信号を送れません。
6つ目の因子はfcエフシー
知的生命体の何パーセントが、ほかの星と通信する力を持ち、実際にメッセージを送ろうとするかです。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

ドレイク方程式の最後の7つ目の因子は、最も恐ろしいものでしょう。
私たちのように高度なテクノロジーを持つ文明は、どれだけ長く続くのか、です。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

「スター・トレック」
(2009年)

人類はすでに、自分を滅ぼせるだけの力を持っており、この先いつまで存続できるのかわかりません。
これが知的生命体に共通の姿なら、彼らはみな、ストロボのようなものと言えるでしょう。
高度な技術文明社会を築いたとたん、自らの破滅を招いてしまうのです。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

方程式にどんな値を入れるかによって、導き出される文明の数は大きく変わります。
方程式の最後の因子である、文明の推定存続期間が、答えを決定づけます。
我々の暮らす銀河系には、高度な技術を持つ地球外文明がたくさんあるのか、それとも全くないのか。

マーク・ミリズ 推進物理学者

私は銀河系内に、10ぐらいあると思います。
ほかの星に信号を送ったり、宇宙旅行をするには、大量のエネルギーが必要です。
もしその使い方を一歩間違えれば、星を破壊しかねません。
進化の度合いで、個人が持てる力は変わります。
石器人は腕力。そのあとは弓矢、銃、今は爆弾。
それに飛行機も武器になり得ます。
ゆくゆくは、個人が核兵器を持つようになるかもしれません。

一度そのように、大きな破壊力を手に入れてしまうと、よほど自重しなければ、自らを絶滅に追いやることになるでしょう。
それだけの自制心を備えた文明は少なそうなので、私は低い値を導き出しました。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

もし知性というものが、常に自己破壊的な傾向を伴うのであれば、実に悲しいことです。
私たち自身の文明も、そう長くは続かないのかもしれません。

デヴィッド・ブリン 物理学者/SF作家

なぜ50年探しても、地球外文明は見つからないのでしょうか。
生命の誕生は、予想以上に困難なのかもしれず、遠い恒星に行くのは不可能、もしくは、時間がかかりすぎるのかもしれません。
宇宙が沈黙している理由は、100通り以上考えられます。
しかし、1977年、地球外生命を探査するグループが束の間、奇妙な信号を捉えました。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

スタートレックには、バルカン人やクリンゴン人が登場します。
もし本当に異星人というものがいて、見つかれば、人類史上、それに匹敵する大発見がほかにあるでしょうか。
火の発見もいいですが、スポックの発見はそれ以上です。

髪型、いいね。
キマッてる。

ブリッジに入ったときは、ワクワクした。
めったにできない経験よ。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

観測可能な宇宙にある地球以外の星で、知的生命体が見つかる確率は、宝くじの勝率を超えています。
銀河系だけで、1千億個以上もの恒星があります。

通信を船内に流せ。

その場で360度回ってみて。

サラ・シーガー MIT 惑星科学&物理学者

宇宙には、1千億個以上の銀河があります。
つまり、知的生命体が進化している確率は、100パーセントです。
問題は、彼らと交信できるかです。

デヴィッド・ブリン 物理学者/SF作家

1977年、地球外生命を探査するグループが、束の間、奇妙な信号を捉えました。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

ジェリー・イーマンは、オハイオ州のビッグイヤー望遠鏡が受信した電波を分析していました。
そして、通常のノイズとは違う、強力な信号を見つけたのです。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

非常に強い電波で、いかにも地球外の知的生命体が送ってきそうな信号でした。
挨拶をするかのようにね。

デヴィッド・ブリン 物理学者/SF作家

これがワオ信号と呼ばれるのは、発見者が余白に、「Wowワオ」と書いたからです。

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

これぞ、まさに我々が探しているものです。
普通のノイズとは明らかに異なる、自然現象では説明のつかない信号です。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

いまでも、これが本当に宇宙から届いた信号なのかどうかはわかっていません。
単に、近くの車から出た爆音だった可能性もあります。

デヴィッド・ブリン 物理学者/SF作家

発見者たちは、発信源が、人間でも、人工衛星でもないと判断しました。
彼らは宇宙からの信号と考え、何度も再受信を試みましたが、成功していません。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

科学では、何度も同じ結果が出なければ、事実と認められません。
ワオ信号は、一度しか受信されませんでした。
同じ方向を観測した複数の天文学者によって、信号が確認されることはなかったのです。

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

興味深い信号でも、繰り返し受信できなければ、ほかの文明からのものとは結論付けられません。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

もどかしいですが希望はあります。
今後も電波望遠鏡で観測を続ければ、いつか第二のワオ信号を受信できるかもしれません。

J.J.エイブラムス「スター・トレック イントゥ・ダークネス」監督

地球外生命体の進化の度合いはわからないが、将来、何らかの形で人類と接触するはずだ。
UFOの目撃談を信じているわけじゃない。
だが人類だけが、特別な存在だとも思わない。

キャプテン席を見たあと、画面を振り返って。

合図してから口を開けて。いくよ。

デヴィッド・ブリン 物理学者/SF作家

15年前は知られていなかった系外惑星も、今は数多く発見され、宇宙への理解は急速に深まっています。
地球外生命体からの信号を探すことには賛成ですが、こちらから呼びかけるのはどうでしょうか。
恐ろしい結果を招く可能性も、大いにありそうです。
孫の世代を苦しめることは避けるべきでしょう。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

どんな生命体がいるかわからない宇宙に、積極的にメッセージを送っていいのか。
地球の歴史を振り返ってみると、異民族との出会いはたいてい、悲劇につながりました。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

人間が、新たな島や大陸へ行き、異なる文明に出会ったときは、常に争いが起きてきました。
そのため私たちには、本能的な恐怖があります。
地球外の知的生命体も、我々が過去にしてきたように、人類に酷いことをするのではないかという恐怖です。

J.J.エイブラムス「スター・トレック イントゥ・ダークネス」監督

夜空に見える星が、すべて惑星を伴っていれば、宇宙のいたるところに生命はいる可能性がある。
これだけ多くの星があるのに、地球にしか生命がいないと考えるのは誤りだろう。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

地球外生命体からメッセージが届いたら解読しなければなりませんが、かなり苦労するでしょう。
その言語は、英語やフランス語、スワヒリ語、クリンゴン語でもないでしょうからね。

マーク・ミリズ 推進物理学者

エイリアンと会話をするには、お互いが認識できそうな、物理的幾何学を用いなければならないというイメージがあります。
しかし幾何学で、殺さないで、なんてどう言えばいいのでしょうか。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

人類よりも何百万年も進んだ文明を持つ生命体は、地球に来なくても我々のことを知るすべを持っているでしょう。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

高度な技術があれば、太陽系がすっぽり収まるような、巨大な望遠鏡を作ることも可能でしょう。
それを除けば、大陸や湖、あるいは車のナンバーまで見えてしまうかもしれません。
この地球を、よその星の展望台から眺めているんです。
それどころか、ラジオやテレビの電波まで傍受しているかもしれません。

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

地上で無線通信が行われるようになって以来、電波信号は地球から漏れ出して、宇宙へと拡散し続けています。
光の速さで遠ざかる電波は、止めようがありません。
地球から放たれた信号は、およそ80光年先まで広がっています。
地球から遠ざかるにつれ信号は弱まっていきますが、高度な技術を持つ生命体なら、そんな弱い信号もキャッチできるかもしれません。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

地球から出た電波は、泡のように広がり続けています。
その泡のなかには幾千もの星があり、大半の星は地球ほどの惑星を持っているでしょう。

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

つまり、もしそれらの惑星に知的生命体がいたとすれば、すでに我々の存在に気付いている可能性があるのです。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

どこかの宇宙人は、ドラマのギリガン君SOSや、アイラブルーシーを知っているかもしれません。

アレックス・フィリペンコ カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

彼らが人類をどう思っているかはわかりませんが、きっといろいろな会話を聞いていることでしょう。

キャプテン席に。

スコッティ、コアは?

すこぶる快調。
長旅の準備OKです。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

人が、遠い星々を訪れるのは、たとえ不可能でなくても、著しく困難でしょう。
しかし無人探査機なら、未知の恒星にも、手軽に行くことができます。

ボイジャー

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

ボイジャーは、1977年に打ち上げられました。

ブラッドフォード・A・スミス ボイジャー計画 写真分析官

今までで最も心躍る計画です。
未知の場所へ旅立つのですからね。

マーク・ミリズ 推進物理学者

ある意味、人類初の、恒星間探査機です。

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

ボイジャーの目的は、もともと太陽系の惑星を探査してさまざまなデータを集め、美しい姿を撮ることでした。

こんなに美しい木星は初めて見ました。

当初の目的を終えたあと、ボイジャーはカメラを地球に向け、写真を撮りました。
そこに写った地球は、広大な星空に浮かぶ、ただの青白い点でした。
広い宇宙において、地球の生命は取るに足らぬ存在なのかもしれません。
しかしボイジャーは、逆のメッセージも携えていました。
地球文明の素晴らしさを伝えるレコードです。

ボイジャーの打ち上げ直前、地球外生命を長年探査した天文学者、カール・セーガンは、特命チームを率いて地球からのメッセージを作成。
金メッキを施したアナログレコードに収録しました。
これは、10万年、あるいは100万年後にボイジャーに遭遇するかもしれない、地球外の文明に向けたものでした。

レコードが入った金属製のケースの外側には、発見した知的生命体がレコードを聴けるよう、再生方法が書いてありました。
レコードに針を乗せて回すのですが、その針もちゃんとついており、レコードの回転速度も指示されていました。
地球の単位は通じないので、回転速度は、水素原子の量子状態が変化する速さで表されています。
水素は宇宙で最もありふれた元素なので、地球外生命体にもわかるはずです。

(レコードの音声)THE SOUNDS OF EARTH

私は、国際連合の事務総長。
147か国が加盟する組織の長です。
地球のほぼ全域に暮らす人類を代表し、わが星の挨拶の言葉を、お届けします…。

地球の子供たちから、こんにちは…。

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

内容は、55の言語による挨拶。
100万以上の画像。
世界中の音楽など、人の営みの紹介です。

J.J.エイブラムス「スター・トレック イントゥ・ダークネス」監督

「イントゥ・ダークネス」はSFでありながら、多くの人の心に訴える物語になっている。
大勢の仲間が団結し、宇宙を探索していく。
誰もが共感できるテーマだし、好奇心を刺激される。
“宇宙を冒険する”と考えただけで、気分が高揚してくる。

マーク・ミリズ 推進物理学者

ボイジャーはおよそ30年かけて、太陽系の果てに到達しました。
今までで、最も遠くまで行った探査機です。
今後、エンタープライズのような旅が可能になるかはわかりません。
しかし、将来もし、地球外生命体がボイジャーに遭遇すれば、
かつて、宇宙へと探査機を飛ばす、高度な文明が存在したことに気づくでしょう。

ダグ・ヴァコッチ SETI研究所 上級研究員

ボイジャーのレコードは、選曲だけでなく、曲の並べ方も見事です。
私が気に入っているのは、名曲集の中盤。
哀愁漂う、ゆったりとしたバグパイプの演奏が聞こえたかと思うと、次は一転、リズミカルで力強く、きれのある曲に。
小休止の後は、調和がとれ、抑制のきいたバッハの平均律クラヴィーア曲集が流れます。
ここには、実に様々な感情が表現されています。
人はときに、悲しみや喪失感にとらわれ、時にいきり立って激しく争う。
しかし、最後にはすべてに折り合いをつけ、心の平安を手に入れるのです。

レコードには、音楽のほか、生命の進化を表した、12分間の音のモンタージュも入っています。
最初のちょっと不気味な音は、天文学者ケプラーが提唱した天体の音楽で、惑星の音を曲にしたものです。
次は、生命が生まれたころの地球の音。火山に沸騰する泥の池、そしてさまざまな生き物の鳴き声が流れます。
コオロギに、爬虫類、ハイエナ。
そのあとは、人間がたてる音。モールス信号に、機械や列車の音。サターン5型ロケットを打ち上げる音も入っています。
最後は、パルサーと呼ばれる天体が、規則的な周期で電波を放つ音。
宇宙の起源を探る人類の努力を、物語っています。

J.J.エイブラムス「スター・トレック イントゥ・ダークネス」監督

この極めて雑然とした楕円形の部屋で、全員が最高の働きをしてくれ、感謝している。
ここでは、重要なシーンを数多く撮影した。
全員が一丸となり、努力してくれたおかげで、素晴らしい作品が撮れた。
まだ見せないが、期待してくれ。
みんな、最後まで本当にありがとう。

人間は、遠くの土地を見つけたら、やがて必ずそこを目指すようになる。
人は、道の場所があれば、行きたくなるものだ。
征服して変えるのではなく、冒険するためにね。

ケイレブ・シャーフ コロンビア大学 宇宙生物学者

人は、冒険好きです。それに、我々が種として生き残るためには、住処を宇宙へと広げるのも、一つの方法でしょう。

デヴィッド・ブリン 物理学者/SF作家

もし人類が、新世界にたどり着き、スタートレックのように惑星連邦を組織したら。
もしほかの星の人々が、私たちが来るのを、待っていたら?
彼らを救いだし、未来に導けるのか。
尻込みしたくなるような、大仕事です。
でも私たちなら、きっとできるはずです。

ポール・ギルスター「Centauri Dreams(原題)」編集者

宇宙船を開発するには、全人類が力を合わせねばなりません。
いまから、エンタープライズの基礎技術の研究を始めれば、3世紀後には、作れるはずです。

マーク・ミリズ 推進物理学者

200年後、世界がどうなっているかはわかりません。
しかし、スタートレックが描き出した、明るい未来のイメージは、人類が今後進むべき道を、示し続けてくれるでしょう。

ジェフ・マーシー カリフォルニア大学バークレー校 天文学教授

自分たちが、未来を変えられるかもしれない、と想像するのは、楽しいものです。
我々の開発した技術は、将来、画期的な推進システムを可能にするかもしれないし、惑星の発見は、子孫たちを遠くの星々へと誘うかもしれません。
現在の私たちの研究成果は千年後に実を結び、人類の運命をいい方向に、大きく変えることになるかもしれないのです。

マイケル・ジアッキノ「スタートレック イントゥダークネス」音楽/ジョン・チョウ スールー役

骨太な音楽にしてほしい。2作目のBGMはね。
ロックギターを前編でかき鳴らしたりとか。
パッパー!ブワワワー!
…話見えてる?

まあ、なんとなく。

タラララララー!ズーズー!パババババ、ザン!

…。

<終>

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